感染対策の指標

中心静脈カテーテル関連血流感染率・使用比

感染率 分子・分母
 分子:中心静脈カテーテル関連感染者数
 分母:当月入院患者の中心静脈カテーテル留置延べ日数
使用比 分子・分母
 分子:中心静脈カテーテル留置延べ日数
 分母:延べ入院患者数
備考(除外項目等)
 感染率の単位 ‰
 使用比の単位 %
指標の説明
 厚労省研究班の推計によると、日本での中心静脈カテーテル関連血流感染による年間死亡者数は少なく見積もって5,000~7,000人いるとされ、ICUにおいては中心静脈カテーテルの留置が退院時の患者死亡のリスクを増加させることも示されています。中心静脈カテーテル関連血流感染対策は医療関連感染対策の重要な柱のひとつとなっています。
指標の種類
 アウトカム
考察
 2022年度の使用比は変動がみられず、感染率は昨年と比較し0.69ポイント増加という結果となりました。挿入時手技を再確認すると、増加傾向の要因の1つとして、皮膚の清浄度を上げる処置の実施率が低下していたことが考えられました。2023年度後半から感染対策推進委員会、看護部で現状をフィードバックし、学習を行い現場での管理の見直しを行いました。挿入前の確実な皮膚洗浄を実施する手技を継続することは、カテーテル挿入時の皮膚に付着している細菌を減少させ、消毒効果を上げる事に繋がります。また、、AST/ICTでのカルテ回診時の血液培養採取やカテーテル早期抜去の提案なども継続しています。今後も感染率減少のために、適切な挿入部位の選択、適応の検討、実施中の管理強化、早期の抜去などの対策を行っていきたいと思います。

尿留置カテーテル関連尿路感染率・使用比

感染率 分子・分母
 分子:尿留置カテーテル関連感染者数
 分母:当月入院患者の尿留置カテーテル留置延べ日数
使用比 分子・分母
 分子:尿留置カテーテル留置延べ日数
 分母:延べ入院患者数
備考(除外項目等)
 感染率の単位 ‰
 使用比の単位 %
 全部署で実施:2階西病棟、3階南病棟、3階北病棟、4階南病棟、4階北病棟
指標の説明
 尿路感染は医療関連感染の約40%を占めており、そのうち66~86%が尿道カテーテルなどの器具が原因です。いったん尿道カテーテルを挿入すると15日までに50%、1ヶ月までにほぼ100%尿路感染を起こすといわれています。尿路感染は一般的に重症化することなく無症状で経過することが多いのですが、ハイリスク患者では膀胱炎、腎盂炎、敗血症に至ることがあるため、管理を徹底することが重要です。尿留置カテーテル関連尿路感染対策は医療関連感染対策の重要な柱のひとつとなっています。
指標の種類
 アウトカム
考察
 2019年度から排泄ケアチームと相談しながら、カテーテルの早期抜去をすすめており、皮膚・排泄ケア認定看護師の直接的な患者介入が積極的に実施されることで、病棟看護師の必要時のみのカテーテル挿入、早期抜去検討の意識が高まり定着してきています。
 また感染率は昨年と比較し、1.49ポイント減少しています。皮膚・排泄ケア認定看護師の定期的なラウンド・抜去可能なタイミングでの直接介入がなされており、不必要なバルンカテーテルが長期に留置されない環境が維持されたことで、2023年度は使用比も前年度と比較し、0.04ポイント減少しています。感染率の正確な測定には必要な培養検査の実施が欠かせません。尿路感染の状況把握と適切な治療を図る上で、必要な細菌検査を行うよう働きを継続していく必要があります。引き続きカテーテル挿入基準の遵守と、日々の抜去へのアセスメント・アプローチを継続していきたいと思います。
参考文献等
 カテーテル関連尿路感染予防のCDCガイドライン 2009

血液培養実施件数

指標の説明
 抗生剤の適正使用は、①細菌の同定(Fever workup)、②推定的治療(Empiric therapy)、③確定的治療(Definitive therapy、推定的治療から確定的治療の切り替えをDe-escalation
と言います)、④抗生剤の速やかな終了から構成されています。血培実施件数は、日常診療の中で細菌の同定の努力が適切に実施されているかどうかをみる指標として設定しました。
指標の種類
 プロセス
考察
 2023年度の血液培養の実施件数は1125件で、2022年度より減少しました。発熱外来の縮小や新型コロナウイルス感染症の5類以降に伴い、発熱患者の受け入れ件数が減少したことが要因と考えられます。しかしながら2021年度とほぼ変わらない件数を維持できており、発熱時の採取や陰性確認など、血液培養が必要な場面での実施が定着してきていると思われます。
 血液培養の適切な陽性率は5~15%とされており、当院でも陽性率15%未満を目標に血液培養実施件数増加を推進しています。2023年度は抗菌薬投与前の培養検査の必要性について、全体学習を実施しました。2023年度の陽性率は16.6%で、目標を達成できなかったものの、2022年度の18.3%から低下させることができました。最終的には陽性率10%を達成できるよう、今後も取り組みを継続します。
参考文献等
 CUMITECH血液培養検査ガイドライン,医歯薬出版株式会社

血液培養のボトルが複数提出された 患者の割合

分子・分母
 分子:同一日の血液培養検査で複数の培養ボトルが出された延べ患者数
 分母:血液培養検査が行われた延べ患者数
指標の説明
 重症感染時には菌血症(血液中に細菌がいる状態)を伴うことが少なくありません。この血液中の細菌を検出する血液培養は、1セット採取よりも2セット採取の方が、検出感度が良好であることが知られています。また、2セット採取は原因菌か採取時の汚染かを判定するためにも重要です。
指標の種類
 プロセス
考察
 2023年度の実施率は、98.0%と前年と同様に高水準を維持しています。複数セット採取率向上のために、2009年度に「血培2セット」として、検査室からトレイにて2セット払い出すシステムへ変更し、定期的に複数セット採取について広報を行ってきました。現場スタッフの努力もあって、複数セット採取が定着し、2015年から98%以上と高率を維持できています。

血液培養での表皮ブドウ球菌コンタミネーション率

分子・分母
 分子:表皮ブドウ球菌のコンタミネーション延べ患者数
 分母:同一日の血液培養検査で複数の培養ボトルが出された延べ患者数
指標の説明
 血液培養を実施する際、皮膚の常在菌が混入し、しばしば結果の解釈に問題を生じます。この指標は、血液培養の採血時、常在菌の混入を防止するため、適切な手技がどの程度行われているかをみる指標です。
指標の種類
 プロセス
考察
 CUMITECH血液培養検査ガイドラインでは、コンタミネーション率の目安は2~3%以下とされています。コンタミネーション率を低く保つためには現場スタッフに対する継続的な教育や、採血環境の整備などが重要となります。
 2023年度のコンタミネーション率は0.54%であり、2022年度よりも低下していました。2022年度の下半期に行った消毒方法の変更が効果的であったことに加え、2022年度から2023年度にかけて実施した血液培養採取手順についての全体学習によって、採取に携わる職員の意識が向上したことが要因と考えられます。今後も水準内を維持できるよう広報・教育を継続していく必要があります。
参考文献
CUMITECH血液培養検査ガイドライン

総黄色ブドウ球菌検出患者の内のMRSA検出患者比率

分子・分母
 分子:期間内のMRSA検出患者数
 分母:期間内の黄色ブドウ球菌検出患者数
指標の説明
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は院内で最も多く分離される耐性菌であり、院内で分離される黄色ブドウ球菌に占める割合は50-70%とされています。MRSAの感染経路は接触感染によるものです。(「MRSA保有/感染患者→医療従事者の手指→患者」や「MRSA汚染の環境→医療従事者の手指→患者」)
 MRSAの検出率の低下には院内での手指衛生材料の使用量の増加や広域抗菌薬の使用量の減少が関係しているとする報告もあります。この指標はMRSA検出率低減を目的に実施された手指衛生の遵守、環境衛生の徹底、抗生剤の適正使用など、感染対策全般を評価するものです。
考察
 総黄色ブドウ球菌検出患者の内のMRSA検出患者比率は、入院・外来ともに2022年度と比較して大きな変化はありませんでした。COVID-19の流行によって職員の感染対策に対する意識が向上し、定着してきている結果であると考えられます。
 当院では2021年度から、ICTや感染リンクナースが中心となって、手指衛生が必要な場面で正しく実施できているかのモニタリング調査を行っています。2022年度からは看護師以外の職種もメンバーに加わり、感染リンクスタッフとして病院全体の感染対策に対する啓蒙活動を実施しています。2023年度の手指衛生遵守率は43%で、目標の50%は達成できなかったものの2022年度の37%からは増加させることができました。2024年度は55%を目標に活動を継続していきます。
 MRSA検出率を減少させるためには、入院ではMRSA保有感染患者の管理・手指衛生の遵守・環境衛生の実施など感染対策の徹底、外来では「風邪に抗菌薬を使わない」など抗菌薬を適切に使用することが重要です。
参考文献等
 院内感染対策サーベイランス(JANIS)公開情報

中心静脈カテーテル挿入時のマキシマル・バリアプリコーション(高度無菌遮断予防策:MBP)実施率

分子・分母
 分子:マキシマル・バリアプリコーション実施数
 分母:新規中心静脈挿入件数
指標の説明
 末梢静脈カテーテルと比較して、中心静脈カテーテルは感染の危険性が高く、中心静脈カテーテル挿入や管理には十分な注意が必要です。中心静脈カテーテル挿入時にはマキシマル・バリアプリコーション(MBP)が不可欠な感染対策であり、手指衛生に加えキャップ・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋・大型滅菌全身用ドレープが用いられます。MBPは、標準予防策(滅菌手袋・小さいドレープ)と比較すると中心静脈カテーテル関連血流感染の発生率を減少させることが実証されています。
指標の種類
 アウトカム
考察
 滅菌ドレープや、サージカルマスク・滅菌手袋の装着率は100%ですが、医師の装着では緊急処置時でキャップや、ガウンの着用が未着用であった例がみられました。しかし、診療部にマキシマル・バリアプリコーション実施率の低迷状況をフィードバックしたことで、2023年度は13.3ポイント増加となりました。
 マキシマル・バリアプリコーションの改善にむけ、看護師・医師への協力を強め、マニュアルに沿った実施の徹底を行い、100%実施に向けて取り組みをすすめたいと思います。
参考文献等
血管内留置カテーテル由来感染の予防の為のCDCガイドライン2011

病棟における手指消毒薬使用量

指標の説明
 医療環境で発生している多くの感染症は医療従事者の手指を介して伝播しており、手指衛生はすべての医療従事者が習熟すべき基本的な技術となっています。2002年にCDC(米国疾病対策センター)は手指衛生のガイドラインを改訂し、医療現場における手指衛生の基本として、簡便で消毒効果が高く、手荒れを起こしにくいアルコールベースの手指消毒薬を使用した方法を勧告しました。医療従事者の手指衛生実施の遵守状況の改善度を測定するために、手指消毒薬の使用量調査は有用となっています。使用量は病棟の各設置場所及び個人の実際使用した量を計測し表示しています。
指標の種類
 プロセス
考察
 2022年度以降は、COVID-19 オミクロン株の継続した大流行により、院内での手指衛生の必要性の意識がさらに高まっています。年間の病棟でのアルコール手指消毒剤の使用量は、毎年500L以上となっています。毎年全体学習で感染対策推進委員による手指衛生学習を計画・実施しており、2023年度は、流水と石鹸での手洗いを各部署の推進委員が指導を行いました。各部署の委員が指導することで、職員全体に手指衛生の重要性が深まっています。
 院内感染対策委員会では、毎月の手指衛生使用量を部署毎にグラフ化し、手指衛生の必要性を周知しています。2021年度からは、手指衛生の遵守率も測定し、質的評価も継続して実施をしています。今後も、「手指衛生は、適格性、プロフェショナリズム、敬意の証」を合い言葉に教育をすすめ、使用量の増加・遵守率の向上を目指します。
参考文献等
 手指衛生等に関する文献:CDCの手指衛生ガイドライン2002年