医療安全の指標

①ヒヤリハット/事故報告数②医師の報告率(医師の報告数/ヒヤリハット事故報告総数)

備考(除外項目等)
 不具合・苦情は除く
指標の説明
 米国AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality:医療研究品質局)は、医療安全文化評価表を作成し、そのデータを収集・分析し医療安全向上のための活動に用いています。出来事報告の頻度は、安全文化という理念を具体的行動として表すものとして医療安全文化尺度の1つに位置づけられています。
 当院の医療安全文化を測定する指標として、ヒヤリハット/事故報告数と医師からの報告率(%)を設定しました。
指標の種類
 プロセス
考察
 2025年度の全報告数は1872件、不具合・苦情を除いたヒヤリハット/事故報告数は1625件でした。適正な報告数については、ベッド数の4倍とする報告もあり、適正な報告数を上回っています。報告数は昨年度より若干減少しましたが、昨年度から職員のインシデントへの感度が上がっていることは報告内容からも窺えます。今後もヒヤリハット事例の報告漏れを無くし、安全文化を築いていきたい。
 2025年度の医師報告数は80件、報告数・報告率とも昨年度より増加したものの、報告率は4.3%でした。医師の報告率が5%を超えている病院は、医師の医療安全に対する取り組む姿勢が高いと評価されているため、医師が関連する事例については積極的に報告を上げる取り組みを継続します。また、研修医の報告数はJCEPにも影響するため、診療部と連携し、2025年度は52件と増加しました。
 2025年度は安全文化の醸成のためのgood job報告が26件と増加しました。ポジティブな報告により、モチベーションの向上・心理的安全性・チームワーク強化・業務改善など現場へ活かせる仕組みへと役立ていきます。
参考文献等
 長尾 能雅『インシデントレポートは病院へのコンサルテーション。患者の治療のための前向きの業務』 週刊医学界新聞2882号 2010年

①入院患者の転倒転落発生率 ②治療を必要とする転倒転落事故発生率

分子・分母
 分子:①入院患者の転倒転落件数  ②当院の事故レベル区分3b以上の転倒転落件数
 分母:入院延べ患者数
備考(除外項目等)
 転倒転落件数は、医療安全管理室に報告されたヒヤリハット/事故報告書をベースにしています。
指標の説明
 入院における転倒転落事故は多く報告される事例であり、その原因には、入院による環境の変化・疾患そのものの影響や治療・手術などの身体的なものなど様々なリスク要因があります。転倒転落を完全に防止することは難しく、中には重大な結果をもたらす場合もあります。転倒転落の防止対策では、①個々の患者のリスクを把握して事故の発生を可能な限り防ぐこと、②万が一事故が発生したとしても患者に及ぶ被害を最小限にするという2つの視点からの取り組みが重要です。
 転倒転落の指標では、転倒転落事故発生率と治療を必要とする転倒転落事故発生率を設定しました。治療を必要とする転倒転落事故レベルは、当院の事故レベル区分3b以上(筋肉関節の挫創・骨折・頭部外傷等で処置治療を必要としたもの)としました。
指標の種類
 アウトカム
考察
 転倒転落発生件数は、2025年度776件でした。治療を必要とする転倒・転落発生数は51件と増加し、濃厚な処置・治療を必要とするものは10件と、前年度比で2倍に増加しました。そのうち9件がトイレへの移動中に発生していました。この事例の改善策として、夜間のトイレ移動時にはナースコールをしてもらい、離床センサーも今までと違う感知式のものへ検討を行っています。2023年度からレベル2以下の事例はカルテ記載のみとし、3a以上の事例のみ報告書提出としています。医療安全への意識強化から、影響度の低い転倒転落の報告数も増加しています。また、高齢による認知機能の低下がみられる患者の増加により転倒・転落の予防が困難になっていることから、個別リスク評価と環境調整を強化し対応しています。転棟転落防止対応によるスタッフの負担軽減も課題の一つであり、対策として転倒防止用具の導入を検討しています。
参考文献等
 『実践できる 転倒・転落ガイド』学習研究社

CV挿入時の合併症発生率

分子・分母
 分子:レベル3b以上の合併症件数(感染除く)(バリアンス報告)
 分母:CV挿入カルテ記録件数→ 感染 BSIデータ【データ】  新規CVC挿入件数
指標の説明
 中心静脈カテーテル(CVC)挿入は、全身管理を目的に日常的に行われている医療行為ですが、リスクを伴う危険な手技でもあります。この手技に関連したアクシデントが発生していたため、これまで再発防止の取り組みがなされています。
考察
 CV挿入に伴う合併症の発生率の低減を目標に、2013年から安全なCV挿入にむけた仕組みづくり(セルジンガーキットの導入、エコーガイド下穿刺手技の導入、CV挿入時の救急カートの設置とモニター装着、マキシマルバリアプリコーションの実施、24時間のモニタリング、挿入時のチェックリストによる安全確認、CV・PICC挿入報告書の導入、教育・トレーニング、PICCの導入等)に取り組んできました。
 2016年度までは、バリアンスが発生した場合の報告制でしたが、2017年度からは、CV挿入全例の挿入時記録から抽出しており、報告の漏れがなくなったこと、全例の内容確認が行えたことから件数が増加しています。
 CV挿入は、経験豊富な医師を中心に、安全な実施が行える教育プログラムの実践を行い、診療部での承認者のみ実施することで安全を担保しています。この取り組みにより、CV挿入時の合併症発生率が減少しています。
 また、看護師の観察強化のため、報告書・観察記録のテンプレートを改定し、合併症発生時の対応が確実に行えるよう安全管理を行っています。
参考文献等
 2015 医療安全全国共同行動(医療安全実践ハンドブック)

①患者誤認発生率 ②患者誤認件数

分子・分母
 分子:患者誤認発生件数
 分母:入院延べ患者数+外来延べ患者数
備考
 患者誤認件数は、医療安全管理室に報告されたヒヤリハット/事故報告書をベースにしています。
指標の説明
 患者誤認には、患者Aを患者Bとして薬剤を投与したり検査や処置等を実施する「患者同定の間違い」と患者の同定は正しいが、別の患者の薬剤を投与したり検査や処置等を実施する「処置等の取り違え」を含んでいます。また受付時の登録間違い・書類の受け渡し間違い・書類・フィルム・検査結果への名前の誤記載等も含めています。
 患者誤認は、重大事故につながる危険性もあるため、患者誤認の発生件数を減らしていく取り組みが重要です。
指標の種類
 プロセス
考察
 2025年度の患者誤認件数・発生数は71件で、昨年に比べて54%の増加となっています。発生場面別では、薬剤と検査関連が多くを占めています。2025年上半期に薬剤誤認事例が多く発生したことから、看護部が主体となり、「正しいダブルチェック」についての、アンケートと学習を行いました。この取り組みから、ダブルチェックの正しい認識の理解が深まり、適切な照合の手順が定着しています。また、「6R月間」を定め、繰り返された事例については、定期的にニュースを作成し、院内全体に注意喚起を行っています。
 不適合報告件数が以前より多い部署が複数あり、ヒヤリハット事例の報告件数が増えており、病院全体で誤認防止の意識が高くなっていると感じます。
参考文献等
 福井次矢監修『Quality Indicator2010「医療の質」を測り改善する』 インターメディカ(2010)

針刺し・切創事故発生件数

指標の説明
 血液・体液暴露は医療従事者の健康や生命を脅かす重大な出来事です。特に針刺し事故は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど危険な感染のリスクが高く、恒常的な防止策が必要です。針刺し事故を減らすには、安全装置つき器材の導入や、その正しい操作方法の習得と処理方法の徹底が求められます。
指標の種類
 アウトカム
考察
 2023年度までは、当院の針刺し事故の原因機材として、インスリン針が約40%を占める状況でした。そこでインスリン針の安全機材導入に向けて学習会を実施し、2023年度末までに全病棟でインスリン針の安全機材導入を行いました。2024年度以降、インスリン針での針刺し事故が減少傾向となっています。2025年度は、全体の針刺し件数が前年と比べ7ポイントと大幅に減少し、インスリン針の安全機材導入の成果が出てきていると考えています。
参考文献等
 一般財団法人 職業感染制御研究会 ホームページ EPINet日本版サーベイランス2004-2020