医療安全の指標

①ヒヤリハット/事故報告数②医師の報告率(医師の報告数/ヒヤリハット事故報告総数)

備考(除外項目等)
 不具合・苦情は除く
指標の説明
 米国AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality:医療研究品質局)は、医療安全文化評価表を作成し、そのデータを収集・分析し医療安全向上のための活動に用いています。出来事報告の頻度は、安全文化という理念を具体的行動として表すものとして医療安全文化尺度の1つに位置づけられています。
 当院の医療安全文化を測定する指標として、ヒヤリハット/事故報告数と医師からの報告率(%)を設定しました。
指標の種類
 プロセス
考察
 2022年度の全報告数は1310件と減少、不具合・苦情を除いたヒヤリハット/事故報告数は1081件でした。適正な報告数については、ベッド数の4倍とする報告もあり、適正な報告数を上回っていて、減少の検証も行い重度な事例、苦情が減少しているのが大きい要因と思われます。
 2022年度の医師報告数は49件、報告率4.6%と、報告数・報告率とも減少しました。さらに、医師の報告率が5%を超えている病院は、医師の医療安全に対する取り組む姿勢が高いと評価されているため、維持する取り組みが必要です。また研修医の報告数はJCEPにも影響するので連携して取り組む必要があります。
 安全文化の醸成のため、good jobレポート、報告書の「良かった点」の定着にも力を注いでいきたいと考えています。
参考文献等
 長尾 能雅『インシデントレポートは病院へのコンサルテーション。患者の治療のための前向きの業務』 週刊医学界新聞2882号 2010年

①入院患者の転倒転落発生率 ②治療を必要とする転倒転落事故発生率

分子・分母
 分子:①入院患者の転倒転落件数  ②当院の事故レベル区分3b以上の転倒転落件数
 分母:入院延べ患者数
備考(除外項目等)
 転倒転落件数は、医療安全管理室に報告されたヒヤリハット/事故報告書をベースにしています。
指標の説明
 入院における転倒転落事故は多く報告される事例であり、その原因には、入院による環境の変化・疾患そのものの影響や治療・手術などの身体的なものなど様々なリスク要因があります。転倒転落を完全に防止することは難しく、中には重大な結果をもたらす場合もあります。転倒転落の防止対策では、①個々の患者のリスクを把握して事故の発生を可能な限り防ぐこと、②万が一事故が発生したとしても患者に及ぶ被害を最小限にするという2つの視点からの取り組みが重要です。
 転倒転落の指標では、転倒転落事故発生率と治療を必要とする転倒転落事故発生率を設定しました。治療を必要とする転倒転落事故レベルは、当院の事故レベル区分3b以上(筋肉関節の挫創・骨折・頭部外傷等で処置治療を必要としたもの)としました。
指標の種類
 アウトカム
考察
 転倒転落発生件数・発生率は、2022年度235件(報告書)と増加しました。転倒転落発生率は増加していますが、報告書が全て出ていないこともあり、比較が難しいのが例年の課題です。治療を必要とする転倒・転落発生率が増加しており、新たなツール(ころやわ)を検討します。
 新たな取り組みとしてレベル2以下の事例はテンプレート提出とし、3a以上を報告書提出としました。今年度から報告数は倍増すると思われますが、確実に事例を拾い出し、転倒転落チームと共有することで「気になる患者」へのアプローチを強化していきたいと考えています。
参考文献等
 『実践できる 転倒・転落ガイド』学習研究社

CV挿入時の合併症発生率

分子・分母
 分子:レベル3b以上の合併症件数(感染除く)(バリアンス報告)
 分母:CV挿入カルテ記録件数→ 感染 BSIデータ  新規CVC挿入件数
指標の説明
 中心静脈カテーテル(CVC)挿入は、全身管理を目的に日常的に行われている医療行為ですが、リスクを伴う危険な手技でもあります。この手技に関連したアクシデントが少なからず発生していたため、これまで再発防止の取り組みがなされています。
考察
 CV挿入に伴う合併症の発生率の低減を目標に、2013年から安全なCV挿入にむけた仕組みづくり(セルジンガーキットの導入、エコーガイド下穿刺手技の導入、CV挿入時の救急カートの設置とモニター装着、マキシマルバリアプリコーションの実施、24時間のモニタリング、挿入時のチェックリストによる安全確認、CV・PICC挿入報告書の導入、教育・トレーニング、PICCの導入等)に取り組んできました。
 2016年度までは、バリアンスが発生した場合の報告制でしたが、2017年度からは、CV挿入全例の挿入時記録から抽出しており、報告の漏れがなくなったこと、全例の内容確認が行えたことから件数が増加しています。
 CV挿入は、経験豊富な医師を中心に、安全な実施が行える教育プログラムの実践を行い、診療部での承認者のみ実施することで安全を担保しています。
また、看護師の観察強化のため、報告書・観察のテンプレートを改定し、合併症発生時の対応が確実に行えるよう安全管理を行っています。
 2022年度は減少していますが、重大事例もあったため、発生率にとらわれない継続的監視が必要です。
参考文献等
 2015 医療安全全国共同行動(医療安全実践ハンドブック)

①患者誤認発生率 ②患者誤認件数

分子・分母
 分子:患者誤認発生件数
 分母:入院延べ患者数+外来延べ患者数
備考
 患者誤認件数は、医療安全管理室に報告されたヒヤリハット/事故報告書をベースにしています。
指標の説明
患者誤認には、患者Aを患者Bとして薬剤を投与したり検査や処置等を実施する「患者同定の間違い」と、患者の同定は正しいが、別の患者の薬剤を投与したり検査や処置等を実施する「処置等の取り違え」を含んでいます。また受付時の登録間違い・書類の受け渡し間違い・書類・フィルム・検査結果への名前の誤記載等も含めています。
患者誤認は、重大事故につながる危険性もあるため、患者誤認の発生件数を減らしていく取り組みが重要です。
指標の種類
 プロセス
考察
 2022年度の患者誤認件数・発生数は59件で、ここ数年横ばい傾向が続いています。
 発生場面別では、薬剤関連、検査、配膳時、書類の誤認が多いのが特徴です。
 2022年度は医療安全推進委員で事例分析を行い、外来で年間の取り組み発表を行いました。
今年度も気がついたものは報告がされており、意識は高くなっています。
参考文献等
 福井次矢監修『Quality Indicator2010「医療の質」を測り改善する』 インターメディカ(2010)

針刺し・切創事故発生件数

指標の説明
 血液・体液暴露は医療従事者の健康や生命を脅かす重大な出来事です。特に針刺し事故は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど危険な感染のリスクが高く、恒常的な防止策が必要です。針刺し事故を減らすには、安全装置つき器材の導入や、その正しい操作方法の習得と処理方法の徹底が求められます。
指標の種類
 アウトカム
考察
 安全器材や携帯用の針捨て容器の導入、2009年度より毎年針を扱うすべての職種を対象に『針刺し防止学習』(実技含む)を実施してきました。
 2022年度は9件と前年度よりさらに減少傾向となりました。労働安全衛生委員会での全職員へ対しての広報や、針刺しの実際の場面の報告に加え、e-ラーニングを活用して、動画学習で針を扱わない職種も含め全職員に学習を実施し、職員の血液体液暴露に関しての、関心・意識が高くなってきたのではないかと考えます。2023年度は、昨年までの当院での針刺し事故の約40%を占めるインスリン針での針刺し0件を目指す為に、インスリン針の安全機材を導入に向けて学習会・全病棟での使用を展開していきます。
今後もサーベイランス結果を分析し、手順の見直しや安全器材の使用方法など学習をすすめていきたいと思います。
参考文献等
一般財団法人 職業感染制御研究会 ホームページ EPINet日本版サーベイランス2004-2020