医療安全の指標
①ヒヤリハット/事故報告数②医師の報告率(医師の報告数/ヒヤリハット事故報告総数)
備考(除外項目等)
不具合・苦情は除く
指標の説明
米国AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality:医療研究品質局)は、医療安全文化評価表を作成し、そのデータを収集・分析し医療安全向上のための活動に用いています。出来事報告の頻度は、安全文化という理念を具体的行動として表すものとして医療安全文化尺度の1つに位置づけられています。
当院の医療安全文化を測定する指標として、ヒヤリハット/事故報告数と医師からの報告率(%)を設定しました。
指標の種類
プロセス
考察
2023年度の全報告数は1696件と増加、不具合・苦情を除いたヒヤリハット/事故報告数は1507件でした。適正な報告数については、ベッド数の4倍とする報告もあり、適正な報告数を上回っています。報告数の増加は、その先のインシデント・アクシデントへ繋がるため、報告漏れをなくす意識改革に繋がってきています。
2023年度の医師報告数は60件、報告数・報告率とも増加し、報告率は5.1%でした。医師の報告率が5%を超えている病院は、医師の医療安全に対する取り組む姿勢が高いと評価されているため、維持する取り組みが必要です。また、研修医の報告数はJCEPにも影響するので連携して取り組む必要があります。
安全文化の醸成のため、good jobレポート、報告書の「良かった点」の定着にも力を注いでいきたいと考えています。
①入院患者の転倒転落発生率 ②治療を必要とする転倒転落事故発生率
分子・分母
分子:①入院患者の転倒転落件数 ②当院の事故レベル区分3b以上の転倒転落件数
分母:入院延べ患者数
備考(除外項目等)
転倒転落件数は、医療安全管理室に報告されたヒヤリハット/事故報告書をベースにしています。
指標の説明
入院における転倒転落事故は多く報告される事例であり、その原因には、入院による環境の変化・疾患そのものの影響や治療・手術などの身体的なものなど様々なリスク要因があります。転倒転落を完全に防止することは難しく、中には重大な結果をもたらす場合もあります。転倒転落の防止対策では、①個々の患者のリスクを把握して事故の発生を可能な限り防ぐこと、②万が一事故が発生したとしても患者に及ぶ被害を最小限にするという2つの視点からの取り組みが重要です。
転倒転落の指標では、転倒転落事故発生率と治療を必要とする転倒転落事故発生率を設定しました。治療を必要とする転倒転落事故レベルは、当院の事故レベル区分3b以上(筋肉関節の挫創・骨折・頭部外傷等で処置治療を必要としたもの)としました。
指標の種類
アウトカム
考察
転倒転落発生件数は、2023年度626件と増加しました。それに伴い、治療を必要とする転倒・転落発生数も46件と増加しています。しかし、治療を必要とする転倒・転落発生率は減少しています。今年度の新たな試みとしてのツール(転倒むし)を検討しています。
2023年度からレベル2以下の事例はテンプレート提出とし、3a以上のみ報告書提出としたため、報告数は一気に急増しました。今まで見逃されていた転倒事例をより確実に拾い出し、転倒転落への意識強化をしていきたいと考えています。
CV挿入時の合併症発生率
分子・分母
分子:レベル3b以上の合併症件数(感染除く)(バリアンス報告)
分母:CV挿入カルテ記録件数→ 感染 BSIデータ 新規CVC挿入件数
指標の説明
中心静脈カテーテル(CVC)挿入は、全身管理を目的に日常的に行われている医療行為ですが、リスクを伴う危険な手技でもあります。この手技に関連したアクシデントが少なからず発生していたため、これまで再発防止の取り組みがなされています。
考察
CV挿入に伴う合併症の発生率の低減を目標に、2013年から安全なCV挿入にむけた仕組みづくり(セルジンガーキットの導入、エコーガイド下穿刺手技の導入、CV挿入時の救急カートの設置とモニター装着、マキシマルバリアプリコーションの実施、24時間のモニタリング、挿入時のチェックリストによる安全確認、CV・PICC挿入報告書の導入、教育・トレーニング、PICCの導入等)に取り組んできました。
2016年度までは、バリアンスが発生した場合の報告制でしたが、2017年度からは、CV挿入全例の挿入時記録から抽出しており、報告の漏れがなくなったこと、全例の内容確認が行えたことから件数が増加しています。
CV挿入は、経験豊富な医師を中心に、安全な実施が行える教育プログラムの実践を行い、診療部での承認者のみ実施することで安全を担保しています。
また、看護師の観察強化のため、報告書・観察のテンプレートを改定し、合併症発生時の対応が確実に行えるよう安全管理を行っています。
2023年度は減少していますが、昨年度に重大事例もあったため、発生率にとらわれない継続的監視が必要です。
①患者誤認発生率 ②患者誤認件数
分子・分母
分子:患者誤認発生件数
分母:入院延べ患者数+外来延べ患者数
備考
患者誤認件数は、医療安全管理室に報告されたヒヤリハット/事故報告書をベースにしています。
指標の説明
患者誤認には、患者Aを患者Bとして薬剤を投与したり検査や処置等を実施する「患者同定の間違い」と患者の同定は正しいが、別の患者の薬剤を投与したり検査や処置等を実施する「処置等の取り違え」を含んでいます。また受付時の登録間違い・書類の受け渡し間違い・書類・フィルム・検査結果への名前の誤記載等も含めています。
患者誤認は、重大事故につながる危険性もあるため、患者誤認の発生件数を減らしていく取り組みが重要です。
指標の種類
プロセス
考察
2023年度の患者誤認件数・発生数は75件で、ここ数年は横ばい傾向でしたが、増加しています。
発生場面別では、最も多いのが検査関連、次いで薬剤関連、その他として配膳時、書類や予約の誤認が多いのが特徴です。
2023年度末には、医療安全報告会において、看護部や医事課から誤認に関する報告があり、他部署からも「5S」に関する報告があり、病院全体で誤認防止の意識が高くなっています。
針刺し・切創事故発生件数
指標の説明
血液・体液暴露は医療従事者の健康や生命を脅かす重大な出来事です。特に針刺し事故は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど危険な感染のリスクが高く、恒常的な防止策が必要です。針刺し事故を減らすには、安全装置つき器材の導入や、その正しい操作方法の習得と処理方法の徹底が求められます。
指標の種類
アウトカム
考察
2023年度は、昨年までの当院での針刺し事故の約40%を占めるインスリン針での針刺し0件を目標に、インスリン針の安全機材導入に向けて学習会を実施し、学習後、年度末までに全病棟で導入しました。今後、インスリン針での針刺し事故減少をモニタリングしていきます。今後もサーベイランス結果を分析し、手順の見直しや安全器材の使用方法など学習をすすめていきたいと思います。