医療倫理の指標

A,身体抑制割合 B,身体抑制1人あたりの抑制日数

分子・分母
 分子:身体抑制を実施した延べ日数
 分母:A,当月の入院患者延べ数 B,当月の身体抑制を実施した実患者数
備考(除外項目等)
 抑制とは、抑制帯、抑制衣、ミトン、4点柵、車椅子用ベルトを含みます。
 途中抑制を中止し、再度抑制した場合も含みます。
指標の説明
 医療の現場では、自らの身に生じる危険を回避することが困難な患者・高齢者に対して、危険を回避する目的で、身体抑制を選択せざるを得ない場面があります。その際、身体抑制の必要性に関する判断は、患者の生命・身体の安全確保の観点から行い、必要最小限にとどめることが大切です。この指標は、身体抑制の実態を把握し、早期に抑制解除を行う努力が継続されているかを検証するものです。
指標の種類
 プロセス
考察
 看護部倫理委員会では身体抑制を最小限にする取り組みを行うことを方針に掲げ活動を行なってきました。2020年8月に「一般急性期病院における身体拘束を考える」Web研修会に参加し、10月の看護部倫理委員会で研修の報告会を行いました。他の医療機関で行われている身体抑制に対する取り組みを委員会メンバーで共有し、2021年度から主任グループを中心とした活動へ発展させ身体抑制最小限への取り組みを継続しています。
 2022年度は統計開始してから身体抑制割合や抑制日数が最小値となりました。チームの中心である主任に活動を移譲することで大きな推進力となり、身体抑制解除にむけた取り組みが進んだ結果だと考えています。
 今後の課題として身体抑制開始や継続の必要性について、アセスメントが不十分であることが考えられるため、マニュアルや書式の整備を行っていく予定です。

臨床倫理4分割法による事例検討数

指標の説明
 医療現場では、医療関連領域の知識、技術だけでは対処できない様々な問題や葛藤に遭遇します。また、法、社会、文化、宗教に関わる問題も少なくありません。こうした倫理問題へ適切かつ迅速に対処することは、患者中心の医療を実践するためにはとりわけ重要な課題です。
 臨床倫理4分割法は、患者の問題を、医学的適応、患者の意向、周囲の状況、QOLの4つのカテゴリーに分けてワークシートに記入し、問題を広い視野から眺め、最善の対応を見出すという方法です。当院では2008年からこの臨床倫理4分割法を導入し、医療ケアチームによる検討を通して現場での倫理的問題に対応しています。臨床倫理4分割法による事例検討数は、倫理問題への対処がどの程度できているかという指標です。また、具体的事例を通してスタッフの倫理教育がどこまですすんでいるかを示す指標でもあります。
考察
 当院では2008年から臨床倫理4分割法による事例検討を始めています。2015年度に、倫理コンサルテーションチームを立ち上げ、院内の倫理課題に関する事例の集約をし、現場での臨床倫理の検討が必要な事例把握と対応を行っています。
 2022年度は、4分割法による検討を25事例開催しました。そのうち8事例に倫理コンサルテーションチームが参加をしています。倫理コンサルテーションチームは医師を含めた多職種で構成されています。事例によってはコンサルテーションチームの一員である医師も参加し、患者にとっての最善の治療方法やケアについて倫理的側面からの意見を述べ、より高い倫理感を発揮できるよう支援しています。
 また、7事例はメモリアルカンファレンスを行い、患者の生きてきた人生を尊重したケアを提供できていたのか、何か他に支援できることはなかったのかなど、事例の振り返り検討を行い、ご家族や医療チームのグリーフケアを実践しています。
 前年度より透析導入を巡る事例が多く見られることから、今年度は、医療倫理委員会の主催で「透析の差し控え、事前指定書を書いたA氏への倫理的対応~患者の真意をくみとる多職種倫理カンファレンス~」をテーマにシンポジウムを開催しました。広く病院職員全体で倫理事例について振り返り、倫理課題について考える一助となったのではないかと考えています。
 これからも、日常診療の場での倫理課題に「立ち止まり」、多職種で意見交換をすることで、患者さんにとっての最善の方針をとることができるよう4分割事例検討に取り組んでいきたいと思います。